研究概要 |
社会福祉の実習教育は「ミニマムスタンダード」を提示する等の工夫により,その内容の質が保証される方向へ進んでいる.ただし,それらのスタンダード・プログラムの内容は,獲得すべき知識について具体的に提示したモデルであり,学生が「自己」を専門職としてどのように活用するかといった側面には言及されていないものが多い.本研究で,実習期間中に毎日記録された学生側の記録を分析したところ,実習生として自分の立ち位置や役割について悩んでいる内容が散見され,実習生がジレンマ感情を抱えやすいのもこの「自己」に関わる領域であると理解される.特徴的なのは,配属先の環境に慣れるまでは業務内容に関する記録が多いのに対し,一通り実習の業務を把握できるようになると,問題意識が頭をもたげ,自分の視点を押し出せるようになってくる転換期がみられることである.転換期以降は,自分の行動について客観的に分析するようなコメントも多くなっている.しかし,その「自己」に関する意識の深まりがうまくフォローされない,もしくは,問題に気付いても自分にはどうしようもないことを次々に見せつけられ,問題解決について考えるヒントが与えられない時期が続くと,記録は徐々問題の核心からは逃避した表面的なものになっていく傾向が見受けられた.以上のことより,転換期以降は,専門職としての「自己」をどのように活用したらよいかという側面について適切なアドバイスが必要とされる時期とうけとめ,知識的な学習事項に加え,感情的な側面に関わる習得事項についても指導内容として言及し,プログラム内容に組み入れることが必要ではないかと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「カリキュラム開発」を視野に入れた計画であったが,学生の実習記録が蓄積されるには3年という研究期間は決して充分ではなく,現状把握・分析・考察に留まっている.分析結果をもとに,現場指導者と意見交換を行い,開発を行うには時間的が足りない.
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今後の研究の推進方策 |
現在の分析では,配属先の種類に関係なく,学生の学びの全体的傾向を追っているが,今後は,配属種別や学年別に分類して,学びの内容について分類・比較をしていく.上記でも触れた通り,研究計画当初に挙げた実習プログラムに関するカリキュラム開発までは到達できないが,何らかの提言を示し,何についてどのように組み入れかという具体的な内容までは踏み込んで提示したい.
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