本研究の目的は、開発途上諸国における貧困家族の子どもの学校教育を通じた階層上昇の可能性の検証である。この課題に取り組むために、本年度は、デリーおよびチェンナイで、研究代表者と分担者2名が、それぞれ現地調査を実施した。 研究代表者(佐々木)は、デリーとウッタル・プラデーシュ州において高等教育機関(様々な大学院と大学)在籍中の10人の若者たちから、それぞれの生活史、現在の生活、将来展望と就職活動の様子について聞き取りをした。その結果、現代インドの都市部における「教育を受けた若者たち」の社会経済的バックグラウンドと彼らの前にある就業機会の多様性、さらに個々の若者の就職活動の具体像がみえてきた。ただし、この若者聞き取り調査は、来年度以降、事例数を増やし、追跡聞き取りも実施することを計画しているので、以上の調査結果はあくまでも暫定的なものである。 研究分担者(山崎)は、デリーとチェンナイにおいて都市労働市場の動向調査を実施した。具体的には、デリーおよびチェンナイのJETRO事務所を訪問し、日系企業のインド進出状況とこれからの展望について担当者にヒヤリングを実施し、高学歴者向けの就業機会が今後拡大すると思われる見通しを得た。もう一人の研究分担者(牛尾)は、デリーとチェンナイにおいて教育政策の動向調査を実施した。教育に関する政府機関と高等教育機関における資料収集と担当者への聞き取りである。この動向調査においては、本研究課題に密接に関与する2010年4月に施行された義務教育に関する基本法、社会的後進層に対する教育におけるアファーマティブアクションの現代的課題と展望についての情報を得ることができた。
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