今年度は、心理社会的分析枠組みを検討するため基礎理論を探索し、親密な関係性における暴力、家族間暴力、暴力と感情秩序、貧困と犯罪、リスク社会とモダニティなどに関する理論的文献調査に着手した。また児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、更生保護などの領域から、本研究に援用可能な介入方法として、副田らが研究しているスリーAアプローチ、司法福祉でのファミリーグループカウンセリング、修復的司法対話など、効果あると思われる介入方法を地域包括支援センター社会福祉士らと研究会にて検討している。今年度より開始の被虐待高齢者を支援する地域住民へのヒアリング調査は、予定通り2例を実施した。この結果と、過去に実施した地域住民の虐待通報に関するアンケート調査結果をあわせて分析し、日本高齢者虐待防止学会にて報告した。しかしヒアリング調査協力者をさらに得るために必要な啓発活動は、高齢者虐待防止・支援法施行から5年が経過し地域包括支援センター職員などが頻繁に啓発するようになったため、開催協力が得られにくくなった。そこで新たなヒアリング調査を追加し、研究計画を修正することにした。新たな地域住民に対するヒアリング調査では、法施行から公表されるようになった高齢者虐待通報実数と、高齢者全人口に対する比を求めて得た通報率、国外で得られている高齢者虐待発生率と通報率との国際比較、高齢者虐待の通報率と社会環境要因との関連など、いくつかの分析結果と、そこから導かれた仮説を提示して、「適切な早期発見と通報とは」を自由に意見交換し収斂していく方法を検討している.このヒアリング調査は専門職に対しても実施する、よって平成21年度後半は、その準備として高齢者虐待報率の国際比較、通報率と発生率のかい離に関する分析と考察、通報率と地域差、通報率と社会環境要因との関連などの研究に着手した。
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