本研究は、所得保障、医療、介護、労働などの既存の社会保障制度やサービスが十分に機能せず、通常の支援によっては問題の解決が困難な高齢者に焦点をあて、彼らが社会保障制度はもとより、経済、政治、地域、社会などから排除されるメカニズムを解明し、彼らを社会的排除から社会的包摂へつなぐソーシャルワーク実践のあり方を提起することを目的としている。 研究の初年度である本年は、はじめに欧米およびわが国における「社会的排除」をめぐる主要な文献のレビューを行った。その結果、「社会的排除」に関する概念的論議はなされているものの、その実態の把握・分析は必ずしも進んでおらず、介護など個別領域ごとにその排除のメカニズムの検証が求められていることを明らかにした。 そのうえで、筆者らが昨年より東京都と共同で取り組んでいる被保護者の自立支援に関する研究でえられたヒアリングをベースに、既存の介護保険施設への入所がままならず、東京都の福祉事務所より都内外の法外施設等への入所を余儀なくされている要介護被保護高齢者の排除と支援の実態を明らかにするたのに、都内福祉事務所(4カ所)および都内外の法外施設等(4カ所)の事例調査を行った。その結果、法外施設の利用が少ない福祉事務所では、(1)被保護高齢者へのきめ細かい支援、(2)法外施設を利用しない方針の共有、(3)高齢所管課など関連機関とめ連携、(4)多様な地域資源の活用がたされでいることが判明した。また、被保護高齢者が住み慣れた地域の介護保険サービスから排除される要因として、(1)被保護高齢者における社会的排除の累積、(2)行政責任の後退と施設(市場)の論理の一般化、(3)貧困ビジネスめ台頭、(4)制度および機関間の連携不足といった点が指摘された。本分析結果は、人文学報(439号)に「在宅生活が困難な被保護高齢者の支援に関する一考察~福祉事務所および法外施設等への事例調査から~」にまとめた。そのほか、日本ソーシャルワーク学会および日本社会福祉学会の年次大会におけるシンポジウムにおいて、介護の市場化のもとにおける高齢者ソーシャルワークのあり方について報告した。
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