本研究の目的は、日本の生活最低限を示す基準生計費を策定し明らかにすることである。策定方法には「合意にもとづく」アプローチを用いる。この目的を達成しアプローチを実施する手順は次の①~⑤であり、かなめは、「『合意にもとづく』アプローチによる基準生計費策定プロジェクト」の実施(以下、「プロジェクト」と省略)である。 ① 生活最低限及び基準生計費に関する先行研究の検討 ② 基準生計費についての現代的理論枠組みと「合意にもとづく」アプローチの優位性の研究 ③ プロジェクトの設計 ④ プロジェクトの実施 ⑤ プロジェクトの結果・方法を公表、を行なった。研究結果を広く伝えることも重要であり、最終年度は、学会報告とHPの作成に力を注いだ。 このプロジェクトの特徴は、ある架空の個人の「事例(モデル)」を定め、それに沿って行われる、「事例による話し合い方式」をとることにある。たとえば、働き盛りの女性のグループでは、「Bさん(32歳)、一人暮らし、賃貸住宅居住」というような、架空の個人を設定し、その人にとって最低必要な「基礎的生活」の範囲について話し合う。参加者で話し合った結果は、研究者によって補強され、価格に置き換えられ、基準生計費を決める、という手順である。 本研究の意義は、生活保障のしくみの基礎となる生活最低限を現代社会の中で再構想することにある。その方法を、一般の人が協議し合意形成していく、とすることで、人びとの生の多様性を前提とし尊重する基準生計費策定が可能であり、独創的な研究になる。また、様々な国で福祉国家の再検討が行われているなかにあって、日本社会の文脈を理解して各国の経験を摂取しながら生活最低限を検討することは、世界的な意義がある。
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