本研究は当初、告発型の障害者運動を展開してきた当事者たちと、障害者としての自覚を特別持たずとも、ある程度サービスが安定して供給され、社会参加も可能な時代を過ごしてきた当事者たちとの間に、障害当事者としての役割や自立支援活動に対する考え方の違いがあり、それがコンフリクトとして顕在化し、ピアサポート実践の展開を阻んでいると考えるところから始まった。しかしながら今回、インタビュー調査を行ったなかで見えてきたのは、そもそもCILの理念にもとづいて当事者が生きることをめぐり、障害当事者自身の内面にコンフリクト(ないしはジレンマ)が存在することであった。 某CILでは「CILで派遣するヘルパーに指示を出す」「ヘルパーを利用して生活する」「障害受容する」ことなどが強く奨励される。障害の程度が比較的軽度だという理由であっても、介助を積極的に利用しないで暮らしていくことは、CILの打ち出す方向性と合致しない。当事者がCILの理念に共鳴して活動をともにする以上、自分がこれまで馴染んできた生活スタイルも、CILの理念に沿うように修正していかねばならない。中核的なスタッフであればなおのこと、これは避けられない。 障害当事者にとって生きやすい社会を、当事者の手で作っていこうとするCILの理念からすると顛倒のようだが、当事者の中には、ヘルパー利用に四苦八苦している者や、障害受容のあり方に疑問を感じる者がいることもわかった。これは当事者の生き方にかかわる内在的なコンフリクトであって、福祉サービス等を享受する際の意識の問題といってしまって済むようなものではない。かかるコンフリクトは、障害者運動を先導し、あるいは先導した先達の思いを継承して生きる当事者と、運動史を知らない当事者との間の運動に対する温度差によって生まれるというより、当事者の「生き方」をめぐる実存的な問題が表出したものであるといえるだろう。
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