フランスの最低所得保障制度は、1988年末創設のRMI(参入最低限所得)制度が約20年ぶりに改定され、2009年6月からRSA(積極的連帯所得)制度に転換している。RMIの支給が無職又は休職中の者に限定されたのに対して、RSAは働いても所得の低いワーキングプア層も支給対象にした。RSA制度は、貧困・低所得者が「貧困の罠」に陥ることなく就労に向かうことを促進するために、就労意欲の刺激策をより強化した形で導入している。しかし、2008年秋以降の世界的な経済危機に遭遇して、RSAの貧困削減効果は限定的なものにとどまっている。 社会的給付と就労支援との関係性については、一般に、対象者への「エンパワメント」が内包されているか、「就労への強制性」が明示的に規定されているか、が問題となる。RSAは、RMIよりも就労意欲の刺激策を強化しているが、対象者への「エンパワメント」を促進する一方で、「就労への強制性」を明示的には規定していない。その意味で「アクティベーション」の一環に位置づけられるが、「福祉から就労へ」の流れを市場メカニズムを通して実現しようとしている点では紛れもなく「ワークフェア」である。このように「アクティベーション」や「ワークフェア」は相対的な概念に過ぎないといえる。近年のフランス福祉国家が、長期にわたる大量失業、貧困率の上昇(特に2008年秋以降)を背景に、就労による社会参加の促進を掲げ、「福祉から就労へ」の途を進んでいることは間違いない。 このことはとくに高い失業率に直面している女性・一人親世帯に対する施策でも明白である。これらの女性が貧困・低所得から脱出できるように、就労による社会参加を可能にする子どもの保育サービスの拡充が注目されているのである。この保育サービスは、女性の子育てと仕事の両立支援策であるとともに、女性の雇用創出に寄与する「雇用の鉱脈」としても、二重の意味で注目されている。フランスの保育サービスは、集団保育から個別保育(認証保育ママによる家庭的保育)に重点力宝移動しているが、女性が安心して子どもを預けることができるように、保育サービス利用補助制度(個別的な現金給付)と家庭的保育者(保育ママ)の専門職化を並行して進めたことは注目に値する。 平成24年度は収集した資料等に依拠してフランスの社会住宅政策の動向(住宅サービスの県への移管)、「対抗的住宅権」(DALO)の運用実態とその限界、最低限所得制度RSAと就労支援の関係性をより掘り』下げて研究する予定である。
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