本研究は、民間社会事業が公的なサービスを補完する役割を果たしてきた日本と、民間非営利部門が公的部門と一定の排他的関係を維持しながら発展してきたイギリスの福祉サービスの歴史的変遷を比較検証しながら、今日の両国の公的サービスの役割と責任を、地域を基盤とする福祉サービスの現状から検証することを目的とする。 平成22年度は、その準備段階として、日本国内で入手可能なイギリスの文献を中心に調査研究を行った。まず、福祉サービスの公私関係を歴史的に考察し、今日の公私関係を理論的に検証した。(金子光一「イギリスの社会福祉(1)-福祉サービスの公私関係の源流-」(pp.143-156)「イギリスの社会福祉(2)-福祉多元主義とコミュニティケア改革の展開-」(pp.173-187)『欧米の社会福祉の歴史と展望』放送大学教育振興会、2011.3.)また、イギリスのソーシャルワークの制度化の源流を解明するため、ソーシャルワークの基本原理であり、今日なお利用者本位の支援において重要視される自己決定や人間の尊厳について、19世紀初頭から体系的に提唱していたJohn Stuart Millの理論的枠組みを用いた実証的研究を行った。(金子光一「ソーシャルワークの制度化に関する史的考察」(pp.27-34)『ソーシャルワーク研究』36-4号、相川書房)さらに、研究分担者と協力して、地方自治体(兵庫県西宮市、岩手県盛岡市、長野県軽井沢市など)において、日本の福祉サービスの多元化の現状についてヒアリング調査を実施した。 なお、平成22年9月以降は、平成23年度に行うイギリスでの有識者インタビューに備え、インタビュー先および対象者の最終的な選定と連絡を行った。同時にインタビューの内容・項目について素案を作成した。現在の段階では.イギリス国内の大学、行政機関、NGOなど第3セクターに対して行う予定で、インタビュー調査は、イギリス国内の数箇所にて行う予定である。
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