研究概要 |
目的:在宅失語症者の家族介護者が抱く患者とのコミュニケーション場面(Com)に対する自己効力感の一般特性を明らかにし,Com自己効力感と介護負担感,精神的健康との関係性について共分散構造分析SEMにて検証した. 方法:対象は失語症者と家族介護者の110組.研究の趣旨を説明し書面による同意を得た後に,家族に対して1)Communication Self-Efficacy Scale (CSES), 2)Communication Burden Scale (COM-B),3)GDS-15,4)SF-8を実施した.統計解析は,1)CSES(total score&3sub-domains)の家族性別・続柄・失語重症度・失語タイプの群間比較,2)CSES(同)と他変数との相関,3)観測変数(CSES)より「Com効力感」を,同様に,COM-Bより「Com負担感」を,SF-8(精神的サマリースコア)とGDS-15より「精神的健康」の構成概念を各々設定し,3者の関係についてSEMによるモデル適合度を判定した. 結果:失語症者の年齢65.7(SD13.3)歳男性比64.5%。失語重症度(軽度1中等度1重度:53/38/19名).失語タイプ(Broca/Wernicke/その他:58/19/33名).家族の年齢61.2(SD13.1)歳男性比25.4%.介護期間平均88カ月.配偶者77.3%. 1)CSESは,失語重症度と失語タイプ間で有意差を認めたが,家族性別や続柄で差はなかった.2)CSESの一部は,介護期間,失語重症度,COM-B,GDS-15と有意な負の相関を認めたが,患者・家族の年齢とは無相関であった. 3)SEMの対象83名。適合判定に統計学的許容水準を満たしたモデル(CMIN=26.5,df=24,p=0.325,GFI:0.931,CFI;0.993,RMSEA:0.036)において,「効力感」→「負担感」への係数-0.45(p<0.001),「負担感」→「精神的健康」0.90(p<0.001),「自己効力感」→「精神的健康」0.31(p=0.015)であった. 結論:失語症家族のCom効力感は,失語症の重症度やタイプ,介護負担感や気分状態との関連を認めた.SEMにて「Com効力感」は「Com負担感」に,「Com負担感」は「精神的健康」に強く影響を及ぼしていた.失語症家族へのCom自己効力感を高める専門的介入は,家族の介護負担感の軽減や,精神的健康状態を守ることに有効である,本研究の知見は,失語症家族の心理社会的問題に対する介入プログラムの開発に新たな示唆を与えるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究進捗状況としては,失語症者をケアする家族介護者のコミュニケーション自己効力感の一般特性を明らかにし,さらに,共分散構造分析を用いた検証にて,家族の介護負担感と精神的健康に及ぼすコミュニケーション自己効力感の影響性についても解明し得た.また現在,家族指導の際に使用する失語症パンフレットを,高齢者や子供にも理解しやすいような配慮を加えて作成中であり,全体として,当該研究は順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた知見(2つの新しい評価尺度の開発)は,失語症者をケアする家族介護者の介護負担感の軽減と精神的健康の保守を目的とした介入プログラムを作成する基礎となるものである.実際の臨床現場では,家族指導に充てられる時間は限られており,効率的な介入法が求められる.家族が抱える多種多様な心理社会的問題に対する実用的な介入方策を検証するために,今後は,複数症例に対する実証的介入研究を予定している.そして,その介入効果について,コミュニケーション自己効力感や介護負担感,精神的健康の視点からの解析を行う.
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