本年度は、ホームレス施策について事例を通して認識を深めた。かつてヨーロッパ諸国においてはホームレスとなった人々に対して必要な支援策を提供することで徐々に一般住宅での居住を実現する「直線的ないし階段的な」施策が実施されていた。しかしながら想定した過程を経て一般住宅での居住に至る者ばかりでなく、ホームレス状態から抜け出せない人々が居た。2000年代半ばにアメリカで「ハウジング・ファースト」という包括的な支援を必要に応じてホームレス生活者に提供する施策が注目され、広まった。「ハウジング・ファースト」の主要な概念は、住居を基本的人権の一部としてみなす、ホームレスのための住居を15%未満とし、地域社会への融合を図る、住居と生活支援を同時に提供する、ホームレス生活者を中心に支援を構築する、などである。 現在、包括的でホームレス生活者を中心にした支援がヨーロッパ諸国での焦点となっているが、アイルランドのコーク・サイモンが運営するホームレス生活者支援施設はホームレス居住者への配慮に長けている。居住室の広さ(20m^2以上)、居住者や利用者に安らぎを与えるために魚を飼うことなど、居住者がテラスや菜園などの創作活動に参加できること、地域社会との融和を図るために塀をなくしたり、教会に隣接する敷地を探したり、施設建設に当たり近隣住民と十分な話し合いを行っていた。コミュニティ重視の活動は日本でも南医療生協の「のんびり村」や太陽の杜の「ゴジカラ村」でも実施されている。 イギリスでホームレス施策の焦点となっている予防施策であるが、若者ホームレスを支援している「聖バジル」(バーミンガム市)では学校と連携して、学校生活の面から居住問題を発見し、問題が深刻化しないように施策を展開している。
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