本研究は、従来から支援システムの機能不全の実態が指摘されてきた中途失明者のリハビリテーションの中で、特に雇用と経済問題に焦点を当てている。眼疾患や外傷によって中途失明した後の人生に大きなハードルとなるのが、 1.失明告知からリハビリテーションへの橋渡しにおける技術的・資源的問題、 2.職場復帰あるいは再就職とそれまでの経済維持の困難性 である。本研究では(2)に焦点を当て、 (1)中途失明者の雇用経済問題の実態把握、 (2)職場復帰(再就職)のための阻害要因の把握とその打開のための有効策の構築 を目指して調査および実践活動に基づいた研究を行う。 平成22年度における、視覚障害者リハビリテーション施設職業訓練科に在籍する中途失明者を対象とした聞き取り調査から、職場復帰の成否に影響する要因は、視覚障害発症前後における早期介入であり、この段階を支援できるのは「障害者」を対象とするリハビリテーションや医療の専門職ではなく、「労働者」を対象とする企業内労働組合やユニオンであり、「働く権利」についての当事者の意識であることが見いだされた。初年度に得られた基礎データを基に、平成23年度は中途失明によって職場を解雇された事例、あるいは職場復帰(継続雇用)している事例を対象に(1)失明から解雇あるいは休職に至るまでの過程、(2)企業側の対応、(3)企業内労組、ユニオンの対応、(4)外部組織(障害者団体やリハビリテーションセンター等の対応に関する聞き取り調査を実施した。その結果、企業に勤務する社員が視覚障害を発症しそれを明らかにした場合、企業はただちに社員を戦力外とみなす傾向が高く、視覚障害リハビリテーション訓練による成果を認める姿勢にはないことが明らかになった。また、企業内労組は、賃金や雇用形態等の労働条件の交渉には積極的であったとしても障害者の支援には消極的であり、一部は裁判闘争に発展した。障害者を支援できるのはユニオンや支援者を中心とした運動であり、運動の活発化をいかに促進するかが次の課題となる。
|