初年次である平成22年度は、「明治政府が三法を立案した主旨・理念の検証」をテーマに、以下の(1)~(4)を中心に取り組んだ。(1)三法成立過程に関する史資料の収集整理。具体的な作業は(1)1946年から2010年までの精神障害/精神病、結核/労咳、ハンセン/らいに関する先行研究の収集、(2)1887年から1898年までの『国政医学会雑誌』『国政医学』に掲載されている精神病者に関する論文の収集、(3)明治初年から昭和初期までの三法比較年表作成、(4)実態統計分析:1903年から1924年発行の『衛生局年報』の患者調査をもとに、精神病者入退院状況、らい患者の療養所出入状況の整理。これらは現在鋭意分析中である。(2)第2次大戦後、GHQの占領下で形成された社会福祉事業の成立過程から現在までの展開を特に社会的扶養の拡大、家事労働の外部化・商品化の2つの視点から分析し、杉田米行編『日米の社会保障とその背景』(2010年5月発刊)に発表した。(3)三法のうち精神病者監護法の成立過程を分析し、法の中心概念である「監護」が精神病者の監護状況の監視をすることによって精神病者の身体と人權を保護するために行政警察が監視する体制を整備した過程を「精神病者監護法の『監護』概念の検証」と題する論文にまとめ『社会福祉学』Vol.51-3(2010年11月発行)に発表した。さらに内務省が提案していた精神病者の「院外保護」構想について「精神病者監護法下の『精神病者』対策の検証-内務省の『院外保護』構想分析-」と題して、日本社会福祉学会第58回全国大会にて口頭発表した。(4)日本の衛生行政の基礎を築いた長與専斎、後藤新平、窪田静太郎の思想をたどりながら、内務省が国民の安寧福寿の保障を主権国家の行政作用による行政警察が担うことにより富国実現を目指したことを明らかにし「内務省の衛生行政構想-「貧民」救済の根拠と方法」と題して『金城学金大学諭集』第7巻1号(2010年9月)に発表した。
|