平成25年度は、障害の自己認識が変化した女性2名の語りを論文にまとめた。2名は学齢期に知的障害を認識していたが、その後社会で、自己肯定感を積み重ね、障害者という枠組みにゆらぎを感じ、新しい障害観、自己認識を獲得していた。 また4年間でインタビューを行った94名中、インタビューが成立した55名を対象に自己認識の形成過程について報告書にまとめた(総177頁)。学齢期には、いじめられる自分、勉強ができない自分が認識されるが、特別支援教育で少人数で学ぶ中、勉強ができる自分、教員との楽しい経験が語られた。一般就労では、仕事のできない自分を認識していた。仕事継続か否かでは、仕事の困難さより仲間とつながっている自分という認識が重要な要因だった。解雇されても、怒りを感じず受け入れ、解雇されてもしかたのない自分も語られた。通所福祉サービス利用者の多くは失職を経験しており、再度安心感や居場所を獲得していた。入所福祉サービス利用者は、入所動機は消極的で、仕方なく入所していた。その内、グループホーム移行者からは、希望が叶えられた自分、職員に選ばれた自分、自信のある自分が語られた。その一方で、長期間入所者からは、自信のない自分、目標がみいだせない自分が語られた。グループホーム利用者は、親から自立できる自分を認識し、仲間と一緒に生きていく安心感を得ていた。 障害の自己認識については、あるが70%、ない・わからないが30%だった。障害があることを「どのように感じているか」を自ら語ってくれた人たちもいた。いくつかのケースの語りから、障害の認識に対する否定的・肯定的な意味付けは、周囲の人との関係性の中で作られたり、作り替えられていた。つまり、現在の生活に満足し、肯定的な自己認識を形成していた人は、自己の障害への肯定的な意味づけに影響を与えていたし、否定的な自己認識の人は、否定的な意味づけに影響を与えていた。
|