研究課題/領域番号 |
22530674
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
潮村 公弘 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (20250649)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 文化的自己 / 自己概念 / 相互賞賛 / 日本文化 / 比較文化研究 / 対人コミュニケーション / 自己謙遜 |
研究概要 |
本研究課題の目標は、日本的とされるコミュニケーション行動の規定因について、意識的側面と非意識的側面の両側面から検討を加えていくことである。本年度に実施した調査研究では、日本的とされるコミュニケーション行動に対する文化的自己観による予測的関係について、新たに主張的行動傾向との関連性を含めて調査研究を行った。本調査研究では182名の日本人女子大学生のデータが分析対象とされた。分析はAMOS Softwareを用いて行われ、文化的自己観の2つの下位次元を外生変数とし、日本的コミュニケーションスキル(2つの下位次元)、自己謙遜の表出、主張的行動傾向を内生変数とする分析モデルを構築した。全被調査者を対象とした分析結果からは、相互独立的自己観は主張的行動傾向のみを予測し得ていたことに対して、相互協調的自己観は全ての内生変数に対する有意な予測因となっていることが示された。さらに、被調査者を自尊心の高さに応じて低自尊心群と高自尊心群に分割した分析からは以下のことが認められた。低自尊心群(n=94)での分析結果は、全被調査者を対象とした分析結果と類同した結果を示した一方で、高自尊心群(n=88)での分析結果は、異なる因果的関係性を示した。特徴的な相違としては、高自尊心群では相互独立的自己観の高さが自己謙遜表出の抑制とも結びついており、この自己謙遜表出の抑制は相互協調的自己観ともambivalent (両面価値的)に結びついていることなどが示された。また、相互協調的自己観と主張的行動傾向との関係性は、高自尊心群内ならびに低自尊心群内のみでは両者の関係性が消失する。このように日本人大学生における自己謙遜表出や主張的行動傾向の複雑性をあらわす知見が得られた。この知見についての比較文化的考察については、中国での調査結果と比較対照していくことで詳細な検討を加えていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究成果発表としては、まず、平成23年度に実査を行った調査研究の成果を2012年7月に開催された国際学会(the 30th International Congress of Psychology: 南アフリカ国,ケープタウン市)において発表した(発表題目は「The Investigation on the Cause of Japanese Communication Behavior: The Cultural-Self Perspective」)。 また平成23年度に実施した対面コミュニケーション型の実験研究の成果の一部を2013年1月に開催された国際学会(the 11th Annual Hawaii International Conference on Education: アメリカ合衆国,ハワイ州ホノルル市)にて研究発表した(発表題目は「The Nature of the Changes in Self/Other Evaluations Caused by Enhancing Conversations」)。 さらに、平成24年度に実施した調査研究(自己主張性との関連について取り上げたもの)の成果を、平成25年度中に国際学会において研究発表する予定であり、発表審査を受けるための投稿(submit)を平成24年度中に既に完了している。 平成25年度には、さらに研究枠組みを拡大した調査研究を日本国内の大学機関おいて実施する予定であり、また日本国内での調査研究に加えて、香港での調査実施と、中国本土内での調査実施を計画している。これらの調査研究の成果を、同年度中に学会発表審査に投稿する予定を立てており、当該の調査研究実施の準備が、海外での調査実施も含めて順調に進んで来ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成25年度中に、これまでにも実施してきた日本と中国での文化的自己観についての比較文化的調査研究について、さらに研究を深めていく。まずは平成24年度に日本国内で日本人大学生を対象として実施した調査研究結果についてさらに詳細なデータ分析を進め、その分析結果と考察をもとにして研究枠組みを拡大した新たな調査研究を、平成25年度にまずは日本国内において実施する予定である。 さらに、(平成25年度中に)国内で実施予定である調査研究をも含めて、比較文化論的な探究のために、香港での調査研究内容を決定して調査研究を遂行する予定である。また並行して、中国本土地域での調査についても計画・準備を進め、調査研究を実施していく予定である。これらの調査では、平成24年度より新たに取りあげた自己主張性と文化的自己の関係性についても、自己概念に関わる文化的な観点からさらに検討を進めていく。そのさい海外での調査研究の実施にさいしては、調査票の使用言語について、文化的等価性の問題という先端的な問題提起をも考慮に入れながら、研究者によって言語的等価性が保証されていると主張されている日本語版質問項目と英語版質問項目を使用していくようにするのか、あるいは中国語版の質問項目の開発を進めていくのかについても慎重に考慮して進めていきたい。 なお、海外の共同研究者との関係も良好に進んでおり、今後に予定されているこれらの実証研究を遂行する上での何かしらの問題点は生じて来ていない。 また最終年度となる本年度は、これまでの研究を総括していくことを通して、新たな発展的な探求テーマを精緻なものにしていき、今後の発展的研究の展開についてその方向性をまとめていく。
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