平成25年度においては、日本と中国での文化的自己観に関する比較文化的研究について、主張性についても新たに取り上げて検討を進めた。日本での調査知見は以下の通りである。共分散構造分析の結果から、内集団他者に対する謙遜表出の規定因と外集団他者に対する謙遜表出に対する規定因は異なっていることが示された。相互協調性は、内集団他者と外集団他者それぞれの他者への謙遜表出の直接的な規定因となっている一方で、相互独立性は、主張性を介してのみ、内集団他者および外集団他者への謙遜表出を規定しており、いずれの他者に対する謙遜表出の直接的な規定因とはなっていないことが示された。また察し能力は、内集団他者に対する謙遜表出のみを規定しており、外集団他者への謙遜表出には影響を及ぼさないことが示された。日本文化においては、コミュニケーション行動において内と外(ウチとソト)を使い分けていることは幅広く指摘されてきたが、その新たな機能差が実証的に示されたと言えるだろう。次に中国での調査知見は以下の通りである。共分散構造分析の結果から、日本での調査結果とは異なる知見が得られた。中国での調査結果からは、内集団他者に対する謙遜表出に対する規定因としては、相互独立性が直接的な規定因(抑制因)として機能し、相互協調性は主張性を介してのみ、内集団他者に対する謙遜表出の規定因として機能しており、直接的な影響を及ぼしてはいなかった。また、察し能力は内集団他者に対する謙遜表出を規定していなかった。このように中国での調査結果と日本での調査結果を比較すると、中国での知見は日本での知見に比して、(内集団他者に対する)謙遜表出の規定因がシンプルであり、そこには謙遜表出にかかわる複雑な心理過程が介在していないことを指摘できるだろう。
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