研究概要 |
本年度においては,システム再生産に寄与する心理メカニズムとして,A)システム正当化動機と文化的世界観防衛動機との相違 B)東日本大震災というシステム脅威が性役割的偏見に及ぼす効果,を取り上げ検討した. A)に関わる研究として,死すべき運命の顕現化が社会的役割に応じた相補的ステレオタイプの適用を変化させるか,複数の実験を行い検討した.死すべき運命の顕現化を操作して学歴ステレオタイプの適用を測定した実験では,死すべき運命が顕現化すると,「学力は高いが社会スキルが低い」という高偏差値大学生ステレオタイプと「学力は低いが社会スキルは高い」という低偏差値大学生ステレオタイプ,の適用が弱まることが見いだされた.この結果は,前年度行ったシステム脅威とは全く逆の結果であった.システム脅威か死すべき運命の顕現化を操作して,男性サブカテゴリー(社会的に成功した仕事志向の男性vs.リストラにあった専業主夫)へのステレオタイプ適用を測定した実験でも,上記と同様のパターンが見られた.これらの結果は,システム脅威と死の脅威が異なった対処を必要とする異なった脅威であることを示唆している. B)に関わる研究として,複数の大学の男女大学生を調査対象者として,日本システムへの大きな脅威である東日本大震災から約1ヶ月後の4月に性役割的偏見に関する複数の尺度に回答させた.このデータを過去3年間の4月に同じ複数の大学の男女大学生から得られていたデータと比較した.結果として,平等主義的性役割観の上昇が複数の大学で見られていた.この結果に関しては,今年度においても同様の調査をおこない,どのような変化が見られるかのデータを見た上で考察をおこないたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では昨年度実施する予定であったシステム肯定化の実験は,東日本大震災という日本に対する大きなシステム脅威のため実施困難となり行うことができなかった.しかし,このシステム脅威を利用した,研究の目的に沿った,代替調査を行った.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では昨年度実施する予定であったシステム肯定化の実験を今年度おこなう.また,昨年度の実験結果から男性サブカテゴリーに関して興味深い結果(システム脅威と死の脅威ではステレオタイプ化に対して全く逆の効果を持つ)が得られたため,このような効果が得られた原因に関して,実験刺激を変えてさらに検討する.これら実証研究を踏まえた理論的検討によって,当初の研究目的を達成する.
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