本年度においては,A)脅威が地位に基づいたステレオタイプや偏見に及ぼす効果を明らかにするための実証研究,B)システム肯定化や自己肯定化の効果を明らかにするための実証研究をおこなった. A)に関しては,研究1では,死すべき運命の顕現化(MS)が,専業主婦または専業主夫を選択した男性に対する評価に及ぼす効果を検討した.MSを操作した後,専業主婦または専業主夫の形態を選択した男性に対する印象を評定させた.結果として,MS状況では,伝統的性役割観を持つ女性では,伝統的な専業主婦型夫に対して好意が高くなり,平等主義的性役割観を持つ女性では,非伝統的な専業主夫型夫に対する好意が高くなった.研究2では,MSとシステム脅威(ST)が,社会的に成功した男性(vs. 社会的に失敗した男性)の評価に及ぼす効果を検討した.MSは,社会的に成功した男性に対する好意を高め,地位に基づくステレオタイプの適用が弱めた.一方,STはステレオタイプの適用を強めた. B)に関しては,日本人男女大学生を参加者にして,システム脅威の有無を操作した上で,システム肯定化条件と自己肯定化条件と統制条件を設け,自分の所属する大学よりも偏差値の高い外集団大学生と偏差値の低い外集団大学生と自分が所属する内集団大学生のイメージに関して,温かさと有能さの次元で評定させた.結果として,女性参加者においては,システム脅威があると,地位に基づいた相補的ステレオタイプの適用が増大し,それに加え,脅威の操作とは独立に,システム肯定化条件や自己肯定化条件では,統制条件に比べて相補的ステレオタイプの適用が低下していた. 最後に,自己・システム・内集団への脅威によってシステムを再生産する心理メカニズムが作動しやすくなる現象とそれを防止する方略について理論的検討をおこなった.
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