他者の心的状態の推測は、3~4歳で可能になると想定されてきた。しかし、近年、共同注意場面では、1歳前半の子どもでも可能だとの知見が欧米で報告されている。本研究では、この他者の心的状態の推測、すなわち他者が経験によって獲得した知識(他者の経験知)の理解を実験的に検討した。 実験協力者は14か月児群24組、18か月児群48組の母子。実験場面は早大文学学術院発達心理学研究室である。子どもと母親が実験室に入室後、室内や実験者と実験補助者(2名の女性)に慣れるため自由遊びを設定した。その後、プリテストと本テストを行った。 プリテストでは、実験者の要請に対する子どもの玩具選択能力を確認した。玩具選択が出来なかった子どもは、本実験のデータから除外した。本実験では、3つの手製の抽象的な玩具を用いた。実験条件と統制条件を設けた。実験条件では、2名の実験者が2つの玩具を別々に子どもと共同注意しながら遊んだ。その後、1名の実験者が退室した。3つ目の玩具は、子どもともう一人の実験者だけで遊んだ。統制条件では、3つの玩具すべてで、2名の実験者と子どもが共同注意しながら遊んだ。その後、1名の実験者が退室した。どちらの条件でも、3つの玩具での遊びが終わると、部屋にいる実験者が3つの玩具をトレーに並べた。そこへ、退室していた実験者が入室し、子どもの目を見て、穏やかに「それちょうだい」と言い、両手を差し出して手渡すように要請した。 その結果、実験群では18か月児だけが、子どもだけが見て知っており、実験者は見ていない3番目の玩具を、実験者に手渡すことが有意に多かった。14か月児群では玩具の選択に有意な差はなかった。従って、18か月児は実験者の知らない玩具選択ができており、他者の経験知の理解が出来ることが示唆された。14か月児には困難であった。
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