研究初年度に当たる本年度の目標は、日米間でどのような場面を過失の発生と認識し、その過失に対して説明の要求をしたのか、その要求に対してどのように弁明したのかを、怒りの研究から得た知見に基づいて検討することであった。この目的を達成するために、Averill(1979)の「怒りの日常体験」という質問紙を参考にして日常体験している弁明行動の実態を把握するための質問紙を作成し、日米大学生478名(日本人学生260名、米国人学生218名)を対象に質問紙調査を行った。主な調査項目は、弁明の頻度、相手、原因、理由、弁明要求の有無と方法、弁明方略、弁明効果であり、弁明の頻度を除くそれぞれの項目について、弁明者(自分が行った弁明)および被弁明者(相手が行った弁明)として最も印象深い体験について回答するよう教示した。弁明を行為者と被行為者の両面から考察する事によって、これまで日米文化差が指摘されてきたセルフ・サービング・バイアスの有無を確認するためである。この調査によって、弁明行動に関する日米大学生間の共通点と文化差が示唆された。例えば、弁明の対象者は友人が圧倒的に多いこと、過失に対しての弁明が最も一般的なこと、弁明理由と弁明方略には一定の関係があること、などが日米間で共通していたが、日本人学生が弁明行為の原因として不注意を挙げたのに対して、米国人学生は事故や正当な理由に基づく意図的行為を挙げたこと、米国人学生は日本人学生よりも弁明行動においてセルフ・サービング・バイアスが強いことなど、文化差も示唆された。今後は今年度の研究結果から、できる限り日米に共通する場面要因を抽出し、両文化に共通するより現実的な弁明場面シナリオを作成し、そのシナリオに基づいて弁明方略とその効果と適切さをさらに検討していく予定である。
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