研究概要 |
日本と西洋の代表的な昔話の収集を行い、最終的に日本の昔話39話と西洋の昔話35話を取り上げ、内容分析を行った。独自のコーディング・スキーマを開発し、テキストの内容を分析した結果、日本の昔話も西洋の昔話も、7~8割がハッピーエンドで終わっていることがわかった。このような共通性がある一方、違いも見られ、西洋の昔話は日本の昔話に比べて、1.主人公が試練や他者の妨害に出会うこと、2.主人公が恋をすること、3.悪者が罰せられること、4.登場人物が変身すること(動物から人間へなど)、がより多くプロットに組み込まれていた。一方、日本の昔話は西洋の昔話に比べて、1.主人公の祈りや信心深さ、2.喪失体験、をより多く含む傾向にあった。総合的に見ると、西洋の昔話は日本の昔話に比べて、プロットにメリハリがあり、困難や障害の克服、恋愛の成就を通してハッピーエンドに至るという過程が多くなっていた。これに対し、日本の昔話では、主人公の祈りや善行、偶然の出来事が幸福をもたらす一方、何かを失ったままで終わるプロットが比較的多く見られた。個人の主体性(agency)を強調するかしないかという違いは、日米の大学生の語りに見られる特徴(Mukaida et al., 2010)とも連動しており、昔話が文化的スクリプトの源泉の一つとして機能していることが示唆された。今後は、既存の物語に見られるスクリプトが個人に内面化されていくプロセスについて、保育現場での実践を中心に解明を試みる予定である。
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