平成22年度より行ってきた日本と西洋の代表的な昔話の内容分析について、論文にまとめ、機関誌に投稿した。主な結果は以下の通りである。1)日本の昔話は西洋の昔話よりもハッピーエンドが少なく、あいまいなエンディングが多い、2)日本の昔話は西洋の昔話に比べ、結婚によるハッピーエンドが少ない、3)西洋の昔話は、日本の昔話よりも登場人物が能動的に行動する、4)日本と西洋の昔話には、共通するスクリプト(勧善懲悪パターン)とともに、独自のスクリプト・パターン(西洋:劇的ハッピーエンド、日本:穏やかハッピーエンドとサッドエンド)が存在する、5)日本の昔話は西洋の昔話よりも話が短い傾向にある、6)日欧の昔話に見られる文化的スクリプトは、日米の個人の語りの特徴と共通点をもつ。以上のことから、昔話が人々の語りの源泉として機能していることが示唆された。 また、中国を含めた3文化圏比較に取り組み、その成果を学会で発表した。中国の昔話の特徴としては、日本と同様に恋愛エピソードは少ないものの、難局を乗り切る主人公の知恵や聡明さが強調されており、日本よりも主体性を感じさせる内容となっていた。ただし、中国の昔話の代表性についてはまだ検討の余地があり、引き続き資料の選定と分析に努めていく。なお、日中米の個人の語りについても、データを再分析して、国際学会で発表した。 さらに、文化固有のスクリプトがどのように個人に内化されているのかを調べるため、保育現場での読み聞かせについて、インタビュー調査と実践の観察を日本(5園、18名)と米国(2園、5名)で行った。その一部分について学会発表を行ったが、現在もデータ収集の途上にあり、分析も試行段階であるため、まとまった知見を得るには至っていない。今後も研究を継続し、文化的スクリプトが個人に内化されるプロセスとしての、保育者の読み聞かせの効果について検討していく。
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