学習者の認知メカニズムに適合した理解しやすい教材の特性を明らかにすることを目的とした。まず、学習者にとっての意味性が高く表象しやすい教材を実体化された教材とし、実体化の観点から以下の1.2.の研究を行い、言語教材の内的な変形によって知識表象を変化させる操作の教材理解に及ぼす効果を探る3.の研究を行った。そこで得られた知見は教育実践の改善に直結するものであり、心理学的にも新たな視点をもった成果といえる。 1. 相似形を維持し、辺の長さをk倍したときの図形の面積変化を問う課題において、大学生でもk倍だとする誤答がみられる。その種の誤りの修正のために、誤った変形結果を実体化する群と実体化しない群を設け、当該図形の求積公式を教授した結果、前者で誤りが修正された。この結果は、実体化によって自らの誤りに対するフィードバックが行われやすくなったためだと考察された。 2. 問題解決にとっての属性の値を極端に変化させる外挿操作の学習内容の理解に及ぼす影響を探る実験を行った。その結果、外挿操作を教示すると学習内容の理解促進だけでなく、外挿操作を媒介にした学習内容の転移を促進した。これは外挿操作が学習者の既有知識に合致する実体性を伴うスキーマを喚起したためだと考えられた。 3. 「pならばqである」というルールの学習において、pに具体的な値を代入し、qの値を推理する操作がルールの理解と問題解決に及ぼす効果について調べる実験を行い、その有効性を示す結果を得た。これは現実の問題解決場面で着目すべき適切属性が具体的な値をとっているため、その値への着目を促進し、結果たる他の属性の値との関連が強化されたためだと考察された。
|