本研究の目的は、学習者の認知メカニズムに即した教材のあり方を解明することであった。今年度は、特に学習者の知識操作という観点から、学習者の不十分な知識操作を保証し、学習内容の理解を促進する方法を取り上げた。研究成果の主なものは、以下の4点である。 1.歴史の教科書では一般に「○○の期間には××が行われた 」 (命題a) という形式で記述がなされている。例えば、先行研究から徳川幕府は全国の大名から年貢を取っていたという誤った認識をもつことが報告されている。こうした誤認識は、例外として位置づく「上げ米」に関する教授(記述)に接したときに、「○○ 以外の期 間には××は行われなかった」という形(命題b)に論理変換できれば、修正される可能性がある。このことについて、2つの実験を通して、当該の論理変換の援助を行った群の誤認識の修正効果を確かめた。本内容は教授学習心理学誌で発表した。 2.「p→q」と記述可能なルールの獲得や問題解決への適用を促進する教授方略として、pに2値的あるいは順序尺度的な値を代入して、qの値を推理する「代入・対応操作」の効果を物の浮沈に関わるルールについて実験により検証した。事後テストの結果は、「代入・対応操作」が前件pと後件qの要因間の関係把握に有効であることが明らかになった。この内容は日本教授学習心理学会で口頭発表した。 3.交換法則について、大学生であってもその理解が不十分であることを確認した。その原因を交換法則の教授事態での記号操作が不十分であることに求め、同法則の教授の記号操作に抽象、半抽象の2水準を設け、理解の違いの有無を検証した。その結果、抽象度の水準の効果は明らかにならなかった。 4.『自己調整学習』(自己調整学習研究会編、北大路書房)において、知識の操作を自己調整学習の観点から分析し、認知制御の方法としての知識操作の位置づけを明確化した。
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