研究概要 |
平成24年度には2つの論文として研究成果をまとめた。1つは生後2年に今回の研究の対象児であるUが、家族以外の「他者」である他児と交わり交流していく中で「自己」形成していく姿を描いた論考「子ども社会への道:生後2年目における「他者」との出会い」(原田彰・望月重信(編)ハーベスト社「子ども社会学への招待」2012,pp.9-29.)である。もう1つは、同じ対象児が生後8ヶ月から1歳4歳ヶ月の間、いかに「父さん」「母さん」なることばを理解し、またそれに対応する語を発するように成っていくのか、克明に分析した論考「子どもは「父や母」という人称語をどのように獲得するのか?」 (京都国際社会福祉センター紀要「発達・療育研究」, 2012, 28, 3-17.査読無)である。そこでは、子どもが発する父の「呼び名」としての「ドーダン」が、父を指し示す名前としての「トータン」と食い違うことが指摘され名前の獲得に新たな問題提起がなされている。自称詞に関しても、自分の名前を理解するということが何を意味するのか、それに関する理論的な考察を学会のポスター発表として行った(日本発達心理学会第24回大会発表論文集 p.373.[2013.3.16明治学院大学白金キャンパス])。未発表ではあるが、今回の科研によって整理した「自称詞」に関するデータの分析から、「自己」の発達を、鏡の自己を「自分の名前」で名指しできることなどは、必ずしも「自己」の成立を意味するものではなく、「自己」を時間的展望をもつ役割存在として組織化できるようになってはじめて自分の「名前」を自分の「名前」として理解するに至るのだという新しい知見が得られている。
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