本研究は,教師の勇気づけ実践が児童の学級適応及び学級集団過程に及ぼす影響を量的・質的に検討することを目的とした。量的な分析においては,勇気づけ実践学級と統制学級の間の学級適応に関する各測度(「教師との関係」「級友との関係」「学習意欲」等)の事前-事後の差異を検討した。質的な分析では,これまで検討されていなかった低学年学級(2年生)での勇気づけ実践による,抽出児の学級適応及び学級や教師に対する態度構造の変容過程を検討した。 勇気づけトレーニングは,9セッション計20時間を要した。教師には,トレーニング終了時から,担任する学級で勇気づけを実践するよう求めた。学級適応の各測度は,実践前,実践中(1ヶ月経過時),および実践直後(2ヶ月後)に質問紙を配布して測定した。 量的な分析では,従来のデータを加えて,条件(実践学級11学級vs.統制学級12学級)×測定時期(実践前vs.実践中vs.実践後)の2要因分散分析を実施した。その結果,「教師期待認知」測度において交互作用が有意であり,実践前では両学級間に差はないが,実践後において実践学級の方が期待認知得点が高かった。この結果から,勇気づけ実践が児童の学級適応に肯定的な影響を及ぼすことが部分的に支持された。質的分析においては,学級適応及び学校生活意欲の低いA児,教師期待認知,学級適応,学校生活意欲,及びソーシャルスキルの低いB児・C児を抽出し,実践前から実践後の変容をPAC分析によって追跡した。その結果,B児については顕著な変化が認められず,A児は学級適応のいくつかの測度間で上昇または下降の異なる結果が得られた。A児・B児に比べて教師の個別の関わりが多かったC児に関しては,学級適応全般において肯定的な変容が見られた。 まだ標本数が十分ではないが,本研究から教師の勇気づけは児童の学級適応を促進する上で効果的な指導法であると示唆された。
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