広汎性発達障害児に対する「いじめ」の実態を把握するために、発達の早期から行動観察を継続中の5年生の例の高機能広汎性発達障害児について、彼らが在籍する通常学級における行動観察を行ってきた。5例のうち2名は高機能自閉症、3名はアスペルガー障害との診断を受けていた。3年生に在籍している2例には「いじめ」の徴候は出現していなかったが、4年生の2例のうち1例には「いじめ」の前駆的状態と思われる現象が散発的に認められ、5年生の1例では、明らかに「いじめ」と認められる事実が確認された。4年生の事例は、体育館での体力測定の場面で測定者の上級生(6年生男児)から記録用紙をわざと床に落とされたり、投げ返されたりする嫌がらせを受けた。級友からは同種の嫌がらせや「いじめ」は確認されなかったが、体力測定などの全校的な行事の際に上級生からの嫌がらせが確認された。また、5年生の事例では同学年の他クラスの特定男児(A)から本児の障害特性に焦点化した執拗なまでのいじめを受けた。そのため、本児は被害関係念慮を持つようになり、「Aが隠れていて僕を狙っている」と言って怯えるようになった。両事例ともに対象児が在籍するクラスの成員からの嫌がらせや「いじめ」は認められず、いずれも上級生や他クラスの児童からのそれであった。担任教師や保護者への聞き取りから明らかになったことは、対象児が在籍するクラスでは、折に触れて対象児の障害特性についてクラス成員に対して丹念に説明がなされていることであった。クラス成員による対象児の理解と日常的な接触経験が「いじめ」を抑止し、対象児への適切な支援に繋がっていることが推察された。
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