研究概要 |
本研究は、行為・出来事の背後にはその人の動機・意図の反映であると捉える力(mentalizing:Frith & Frith, 2003)の発達的起源とその過程を解明することを目的としている。従来の研究からは、「人-物-人」の三項関係の研究(間主観性、共同注意、社会的参照など)からは、心を持つ存在として他者を捉えるようになることが0歳の終わり頃に出現することが示されてきた。しかし、三項関係の第三項が従来の“モノ”ではなく、“コト”である場合もあり得るだけではなく、それが人為的な出来事の場合にこそ、その行為者の意図の了解が必須だと考えると、モノの共有よりも先にコトの三項関係(人―事―人)が発達をするだろうと予想される。 本研究では、50名の乳児とその母親との3、5、8、12、15か月のときの家庭での母子のやりとりを母親自身が撮影をする「ビデオ育児日記法」によって得た映像資料から、乳児が「母親」か「物」を見た時点から前後15秒、全体で30秒の事例を各月齢で抽出して、母親の視線、表情、要求、ジェスチャー、応答、及び、乳児自身の表情、要求、対物操作を1秒単位でコーディングをした。 その結果、3,5か月では「子がものを見る~母が子が見ている物を見る」という行為系列が最多であるが、8か月では「子が物を見る~母がその物の機能を示す」ようになり、12、15か月では「子が物を見る~母がその物の機能を示す~子がいじくる」ようになる。つまり、8か月頃から母親は意図的にコトを生み出すようになり、子どもは、そこで示された出来事を受け取るようになる。 このような親の働きかけは、子どもは心的世界を備えた個であると捉え,その行動の背後に存在すると想定される心性に働きかけようとする傾向(Mind-mindedness:Meins,1997)を反映したものと考えられる。
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