平成22年度は、ハンセン病元患者5名(いずれも70~80歳代)と面談を行い、彼らが子どもを持つことが許されなかった背景とそれに対する認識、および世代継承的(generativity)な意識と行動などについて聞き取りを行った。結果は概ね次の通りである(この結果は現段階のものであり、今後変わりうる可能性に注意してほしい)。 1)長い間ハンセン病療養所では感染拡大防止という名目で入所者に断種や中絶を強要し、子どもを持つことを許さなかったが、こうした行為は自らの人間性を大きく損なうものであったと彼らには捉えられている。「まともな人間でなくなったような気がした」という語りがそれを象徴している。その一方で妊娠で病が悪化する女性が存在したため、これを防ぐ目的もあったと語った方もいる。 2)世代継承的な意識や行動については個人差が大きいようである。人間として何かを後世に遺したいという強い意識を持って、ハンセン病者として語り部となったり、児童福祉への寄付を行ったりしている方がいる。その一方で、自分のことで精一杯で社会や後世のためにという感覚があまり見られない方もいる。この差は、在郷家族との関係や療養所内での認知のされ方などによって生じていると考えられる。 3)2)で世代継承的な意識や行動を持っている方では、中年期においてそれは開始されている。 「人生50年だと思ったから」という理由をあげた方がおり、これに象徴されるように、老いや死期の自覚が世代継承的な意識や行動の契機になっていることが考えられる。
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