研究概要 |
視空間性の認知処理能力に障害がある児童は,全般的な注意能力および言語性短期記憶の課題遂行に問題は認められないが,視覚イメージを伴う視空間性短期記憶の課題遂行に困難さを示すことが報告されている。しかしながら,この障害の原因は検討されていない。本研究では,学習障害児が示す困難さが「記銘」(つまり,入力情報の心的イメージ化),それとも「保持容量」に起因するのかを検討した。実験参加者は標準化された知能検査(WISC)により,3群に分けられた(動作性IQ低群,言語性IQ低群,健常群)。彼らは,画面上に呈示される視対象の位置(3,5,or7個)を記銘した。この空間配置イメージがテスト時に呈示される配置パターンと同じであるのか否かをYES/NOで判断した(記銘した空間配置イメージの保持時間は1秒)。実験の結果,動作性IQ低群の成績のみが他群より有意に低いことが示された。刺激個数が3個でも保持が困難であったことから,動作性IQ低群の児童は,呈示された視対象を「1つの空間配置パターン」としてイメージ化することが困難であり,したがって,単に保持容量の低さのみで説明することができない。 本研究の重要性は 1. 動作性IQ低群と健常群および言語性IQ低群の記憶成績を直接的に比較することが可能な実験パラダイムを考案した点である。 2. 視空間処理能力に障害をもつ児童は空間配置をイメージ化するという記銘時に困難さを示しており,「保持容量」の低さが主要因ではないという新たな知見を示した点である。
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