視空間認知能力に困難さを抱える学習障害児の空間短期記憶は健常児よりも低い結果が様々な研究で報告されている。本研究の目的は,学習障害児の低い空間短期記憶能力がどのような原因によるのかを検討することであった。平成22,23年度では,複数の空間位置情報を同時に呈示し,それらを一時的に保持するよう健常児群と障害児群に求める実験を行った。実験結果を分析したところ,学習障害児群の空間短期記憶成績の低さは,空間イメージの保持容量ではなく,空間イメージの記銘に問題があることが確認された。平成24年度では,複数の空間位置情報を“継時”的に呈示し,それらを一時的に保持させる課題(空間継時課題)を用い,学習障害児の視空間認知能力の特徴について検討を行うことを目的とした。近年では,学習障害児の課題成績は健常児よりも低い結果が示されている。継時呈示される複数の空間位置情報を記銘して保持するとき,認知システムであるワーキングメモリが必要である。このシステムは注意を制御する中央実行系,貯蔵庫である視空間的記銘メモ(視空間イメージの保持)と音韻ループ(言語情報の保持)という複数のコンポーネントから構成される。空間継時課題には中央実行系と視空間的記銘メモが関与することが報告されている。前述したように,視空間認知能力に困難さを抱える学習障害児は空間継時課題を健常児と同等に遂行することが困難である。この原因が中央実行系あるいは視空間的記銘メモの障害に起因するのかを検討する段階である。現在,予備実験が完了したところである。今後,本実験を行う予定である。平成22,23年度と平成24年度および今後の研究で得られる研究成果により,空間情報(空間イメージ)の保持におけるワーキングメモリの関わりを明確に理解することが可能となる。この成果によって,より精度の高い視空間認知能力検査の考案につながるものと期待される。
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