研究課題/領域番号 |
22530720
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伊藤 美奈子 慶應義塾大学, 教職課程センター, 教授 (20278310)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 不登校 / 高校 / 進路の問題 |
研究概要 |
平成24年度は、不登校や中途退学者の受け入れを積極的に行っている高校を対象に調査を実施した。中学卒業後のさまざまな進路についての実態を踏まえつつ、不登校支援の充実した通信制高校に通う生徒を対象にした大規模調査を実施し、生徒における高校進学以前の不登校経験と、高等学校に入学した後の生活意識の関連性に着目して考察を行った。調査対象者は、全国に約40校を有する広域通信制高校の週5日コースに通う生徒2617名(回収率58.0%)であった。まず、不登校経験者が求める支援ニーズの実態を検討した結果、不登校当時の症状の多さは、現在の自尊感情や将来への自信得点との間に弱いながらも負の関連が見られた。本人が抱える症状が多いほど支援が必要であると思われるものの、実際にはその症状ゆえに、周りからの支援を拒む者も少なくないことを示唆する。支援を受けることが、その後の自尊感情得点にも関与することを考えると、より早期に適切な支援に結び付ける方法の確保が重要であろう。 不登校に対する認識については、約半数は「もう戻らない」と前向きであるが、他方で「いつ戻るかわからない」「考えないようにしている」と消極的な回答をするものも半数いる。この違いは、現在の自分に対する自信(自尊感情)や将来への自信とも関連がある。現在の生活に居場所を感じ、確かな自信が持てている生徒ほど過去の不登校を「乗り越えた」感を有していることがわかる。同時に、過去の不登校経験を吹っ切ることで、現在の自分にも将来にも前向きに取り組む自信が出てくるということかもしれない。新しい高等学校の開設などにより、中学で不登校をしていても高校には入りやすくなったという改善がある一方で、高校から大学、そして就職まで含めると、社会への敷居はまだまだ高いのも事実である。不登校の最終目標を「社会的自立」と考えるなら、さらに高校卒業後にも焦点づけた研究が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、不登校経験を持つ高校生(通信制高校)2617名という対象に対し、大規模調査を実施することができた。中学校で不登校におちいった生徒が、その後進学した高校でどのような生活を送り、そのときの(高校進学後の)意識が、自分の過去である不登校の経験をどのようにとらえ直すのか(過去と現在の関連)、さらには、現在の状況や過去への受容が将来展望にどんな影響を持つのか(現在や過去と将来との関連)について検討する材料が得られた。また、不登校により「得たもの」と「失ったもの」に焦点づけた調査を実施したことにより、不登校経験者自身が、不登校をすることにどんな「意義」がああったととらえているかを明らかにすることができた。これらの結果については、調査に協力のあった学校で報告したことに加えて、学会や紀要等において報告することもできた。 今回の結果が、「通信制高校に通えている生徒」に固有のものであるのか、それとも不登校経験を超えて広く高校生全般に通じる結果であるのかを検討しなくてはならない。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、24年度の成果をさらに確認し深めるため、以下のような調査を予定している。平成24年度は、通信制高校を対象に大規模調査を 実施し、不登校経験者の「その後」について明らかにすることができた。25年度は、そのこれらにより、高等学 校における不登校・中途退学支援の実態および、それに対する指導と支援の実態と課題について明らかにする。 研究1 通信制高校での調査(アンケート調査) 社会的自立という観点から、高等学校卒業後にまで焦点を 広げ、不登校経験者の「その後」について実証的研究を行う。 踏査対象:広域通信制高校クラーク高等学校の 23キャンパスの卒業生 /調査時期:平成25年6月~7月 /調査内容:高校卒業時から現在までの生活について。 不登校という経験の影響や執拗と感じている支援について 研究2 普通高校での調査 /調査対象:全日制高校に通う高校生 /調査時期:平成25年9月 /調査内容:平 成24年度に通信制高校対象に実施した内容と比較検討を行うため、同じ内容で調査を実施(中学校・高等学校で の学校適応、不登校時の指導と支援(過去~現在までの経緯)、将来展望)。 研究3 高校教師対象の調査 /調査対象:高等学校(普通高校、通信制・定時制高校)およびサポート校の教 員を対象としたアンケート調査。/調査時期:平成25年7月 /調査内容:教師としての、不登校や中退に対する 考え方や実際の指導方法について(実態・成果・課題)。 研究4 高等学校対象の聞き取り /調査対象:高等学校(普通高校、通信制・定時制高校)およびサポート校 を対象とした聞き取り調査。/調査時期:平成25年8月 /調査内容:学校としての不登校や中退生徒に対する指 導、サポート体制の実際について。 平成25年度は最終年度(4年目)にあたるので、学会での報告ならびに、報告書の作成を行 う。
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