本研究では,健康高齢者の抑制機能の特徴を把握するため, Stroop課題とSRC課題を用いて,3年間にわたり,健康高齢者の同一性ベースと場所ベース抑制機能の変化を検討し,さらに,MMSE課題とFAB課題を使って,健康高齢者の認知機能と前頭前野機能を検討した。研究結果から,健康高齢者の抑制機能の特性に関しては,以下の3つの点が指摘できるだろう。 第1は,健康高齢者の抑制機能は,加齢に伴って,正確さ(誤答率)という側面より,刺激を処理する速さ(遂行時間)という側面に影響を受けると指摘することができる。本研究の結果から,正確さの加齢変化は速度の加齢変化よりも相対的に小さい。このことは,Salthouse(1996)が示唆したように,速さは加齢に伴って低下する基本的な要因であると考えられる。第2は,健康高齢者の抑制機能は,一様に衰退しているわけではないという指摘である。本研究でのStroop課題においては,ターゲットとなる刺激とターゲットを妨害する不適切なディストラクター刺激が同時に提示されたが,高齢者では不適切なディストラクターに対する刺激を抑制することが困難であることが示された。このような抑制機能の低下は,老年期では避けられないことなのかもしれない。第3は,抑制機能の種類によって,加齢に伴う低下の大きさが異なるということが指摘できる。 本研究では,遂行時間を指標にすると,同一性ベース抑制機能の低下は確認されたが,場所ベース抑制機能の低下はみられなかった。 よって,同一性ベース抑制機能は,場所ベース抑制機能より低下しやすい可能性であると考えられる。つまり,2種類の抑制機能の低下の差は,刺激を処理する速さという側面に出ていると考えられる。
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