本研究の目的は、クライエントの感情調整力を高める心理的介入法を開発し、その効果を検討することである。本年度は、(1)困難な感情体験と感情調整の問題に関する研究と(2)感情調整スキルを高める介入法と面接における感情の作業のプロセス研究を実施した。まず、2つの心理療法研究に関する国際大会において、感情調整にかかわる介入のシンポジウムを企画・実施し、諸外国の専門家と意見を交換し、本研究の介入モデル開発の参考にした。そして、(1)治療同盟の確立と共感的肯定、(2)困難な感情の喚起、(3)感情の変容の3段階からなる介入マニュアルを作成した。次に、2名の臨床心理士にこの介入マニュアルに基づいた介入法を訓練し、7名のクライエントに全3回の試行カウンセリングとそれを振り返るIPRインタビューを、クライエントを対象として実施した。 その結果、クライエントにとって役だった出来事と妨げとなった出来事を同定した。3回の面接を通して、セラピストによる共感的肯定の反応がクライエントにとって困難な感情に向き合い、またそうすることの自信や勇気をもつことのきっかけとなっていることが分かった。この介入マニュアルは比較的簡単に訓練に使えること、また、3回の介入が過去の挫折体験と関わる感情を緩和することに役立つことが分かった。本研究は、感情調整スキルを扱うための3つの基本的モジュールを実証的に明らかにした点、特にそのプロセスと効果についてクライエントの視点から検討した点に意義がある。
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