本年度は、昨年度に引き続き過去の対人的傷つき体験を変容し、感情調整力を高めることを目的とした全3回からなる試行カウンセリングを6名に対して実施し、計13名のクライエントのデータ分析を行った。成果を上げたケースと成果が上がらなかったケースのプロセスを比較し、傷つき体験の解決とかかわる4つのステップ(共感的肯定、感情の喚起と認証、感情にとどまり調整する、完了と肯定)をより具体的に示した。また、感情を扱っている場面におけるクライエントの主観的体験の質的分析を行った。成功ケースでは、クライエントが苦痛を伴う感情だけでなく陽性感情も体験していることが分かった。このデータを元に感情調整力を高めるための介入の手引きを修正を行った。また、本研究から得られたデータをもとに介入例を加えた。 次に、感情調整を扱うことを治療目標として挙げるAccelerated Experiential Dynamic Psychotherapy(加速化体験力動療法)の臨床家にインタビュー・データを質的に分析した。セラピストは、話すことを中心としたセラピーから体験を扱うセラピーへの移行を「自然体に戻る」と表現しており、より自分に合ったセラピーのスタイルであると考えていた。また、感情を直接扱う作業がストレスやバーンアウトではなく、セラピストとしての充実感を生み出すことも分かった。 本研究から感情調整を高める介入の基本的な要素とその流れが明らかになりつつある。本研究は、アナログ研究でありながら、3回の面接を行うことによってより実際の臨床に近い形で、感情調整への介入を検証したことに意義がある。また、セラピスト、クライエント、観察者から得られたデータのトライアンギュレーションを行っていることも本研究の意義である。
|