平成22年度の研究においては、1.成人患者へのインタビュー調査、2.患者家族へのアンケート調査、3.医師に対するアンケート調査を行った。成人患者の回顧的回想においては、病名を知った時期と病気の実感を持った時期の違いが語られた。すなわち歩行障害などが出現しないと病名の実感が持ちにくいとのことであった。家族のアンケート調査からは、さまざまな病名や病態の告知時での体験が回答された。医師との関係が良好な場合、告知された体験をポジティブに受け取っていることが明らかになった。しかし子どもへの病気の説明には慎重な姿勢の親が多かった。医師のアンケート調査は、日本小児神経学会の協力を得て、全国規模の調査を実施することができた。1003名の小児神経の専門医へのアンケートを郵送し307名の回答を得た(回収率30.6%)。70%程度の医師は筋ジストロフィーについての病気の説明は必要であると感じていた。しかし病名や病気の経過についての説明にういて態度は多様であった。患児が思春期に入り病気について知りたいと言えばぐ病名や予後についても説明すべきだという意見や、合併症やその予防について説明するが病名は伝えないという意見や、もう少し心身の成長を待って説明すべきだという意見があった。また病気についてのネガティブな情報だけでなく、遺伝子治療の可能性や精神的成長を促進する話題など、ポジティブな情報についても言及すべきであるという意見も多かった。筋ジストロフィーの告知の問題は、小児神経の専門医にとっても重要な課題であることが明らかになった。
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