研究課題/領域番号 |
22530742
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木谷 秀勝 山口大学, 教育学部, 教授 (50225083)
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キーワード | 高機能広汎性発達障害 / 自己形成をめぐる葛藤 / WISC-III / WAIS-III |
研究概要 |
今年度は、高機能広汎性発達障害児(以下、HFPDD)23名(児童期群)の継続調査を実施した。そのうち、平成16年度から継続調査したHFPDD児16名(女性2名)、平成18年度から継続的に調査したHFPDD児7名(女性3名)であった。調査内容は、WISC-III(あるいはWAIS-III)知能検査、臨床描画法(○△□物語法か樹木画テスト)、絵画統覚法(CATかTAT)、及び自己意識に関する面接を個別に実施した。 結果(主にWISC-IIIの分析を通して)として、主に8年間追跡調査したHFPDD児では、小学生から中学生では、WISC-IIIの「単語」と「理解」のバランスが安定すること、また「積木模様」と「組合せ」の高さから、「困った」時に一人で対応できる能力の形成とその基盤に「達成感」から生まれる「自己肯定感」の維持が安定することが示唆された。また、中学生から高校では、「算数」と「数唱」の同時処理系が安定すること、「行列推理」と「積木模様」と「符号」とのバランスが安定して、複雑な状況や課題への迅速さと切り替えが可能になり、環境の変化に対応して、新たな自己の形成が進みやすくなることが示唆された。 さらに、児童期から継続的に支援している「児童期群」と、思春期以降に支援を始めた「思春期・青年期群」での同時期のWAIS-IIIを比較すると次の3点に差異があることが示唆される。第一に、「児童期群」が「思春期・青年期群」と比較して、言葉への過敏さは低下するが、自己表現の柔軟さは伸びる。第二に、「児童期群」に不器用さによる書字障害が減少するので、学習面での自信の低下が予防できる。第三に、「児童期群」の「数唱」、「配列」、「理解」に項目間での低下が見られる。この事実から、家族や学校の支援により、周囲と合わせるための葛藤が減少して、「自分らしく」学校生活を過ごしている可能性も推測された。 以上の結果から、早期からの家族や学校の支援を通して、安定した自己形成が進む可能性が高いことが明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
継続調査のために、今年度予定していた30名の調査が難しかった面もあるが、調査以外の場面で、定期的な面接や学校支援を通して、今回調査した23名の家庭や学校での適応状態に関して十分に把握していることもあり、個別的にあるいは全体的な自己形成をめぐる葛藤や問題点について明確にすることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から、青年期、特に大学入学前後から支援を開始したHFPDD者を調査対象として追加している。したがって、来年度にはこの継続調査の結果も明確になるので、この方向での分析も期待している。 しかしながら、全体としてのデータ分析に関しては、個人間の差異が大きいために、今後の分析に関しては、大きな課題になっている。
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