1.目的:思春期・青年期から支援を開始したHFPDD者が抱える自己形成をめぐる葛藤の特徴を明確にすることを目的とする。 2.方法:①対象者:平成18・20年度から継続的に支援しているHFPDD者9名(女性は1名)に調査を実施した。そのうち、定期就労は4名、就労移行や研修中が3名、無職が2名となっている。精神障害者保健福祉手帳の取得が5名。②方法:WAIS-III知能検査、臨床描画法(○△□物語法、バウムテスト)、TAT、自己意識に関する半構造化面接を個別に実施した。 3.結果及び考察:WAIS-IIIでは、平成18年度のWAIS-IIIと比較すると、言語性・動作性・全検査IQのそれぞれに大きな低下は見られない。また、言語性では「類似」、「理解」、動作性では「絵画配列」、「絵画完成」、「符号」が伸びている。臨床描画法では、特にバウムテストからは社会適応の良好さが見られるが、不器用さが強い場合には、樹冠部の処理のバランスが顕著で、対人関係への過敏さも示唆される。TATでは、大きな変化は見られない。自己形成をめぐる葛藤に関しては、就労状況が大きく影響しており、就労や就職活動がうまく行かない場合に、過去から現在の自己への否定的な面や環境に対する迫害的な感情が強く出てきている。以上の結果からは、次の2点が示唆される。第一に、継続的な支援により、社会的適応状態は安定してくるが、その一方で他者や社会からの評価への過敏さが強くなるリスクが高まる。したがって、就労してからの給与や評価などの視覚的な達成感を実感できる支援システムが必要になる。第二に、ワーキングメモリーに関わる能力が伸びない点から判断して、就労を含めて、脳機能の「中央実行系」の不全状態をサポートできる適切な社会的モデルの存在が、児童期や思春期以上に青年期以降で重要になる。
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