研究概要 |
本研究は非行少年の生活環境における被害体験が心理特性と非行性に及ぼす影響を明らかにすることであり,被害からの回復を求めて更生の手がかりを探り,青少年の健全育成に資することを目的としている。 研究対象としては,非行少年と一般青少年の双方を対象とした調査研究を行うものであり,研究初年度(平成22年度)の非行少年調査(第1次)に引き続いて,本年度(平成23年度)においては主に一般青年調査(第1次)を実施した。一般青年に対しては非行少年調査と同様に家庭・学校・地域等の生活環境における様々な被害体験(例えば家庭における身体的虐待,心理的虐待,地域生活における犯罪被害等)についての質問紙調査を実施した。ただし,一般青年に対しては,被害経験の調査項目は必要最小限にとどめた。また,堀尾(2001)が作成した無気力尺度(「厭世観」「失敗不安」「自信なし」の3因子構成・30項目の心理尺度)の調査については同様に実施して,被害経験と心理特性との関連を探った。なお,当初計画していた郵送調査に代えて,学校等の協力を得て高校生・大学生を対象とした一般青年調査を実施した。 その結果,被害の経験は一般青年よりも非行少年の方が被害経験が多く,被害時の感情反応も高くて不快感情を強く抱えていることがうかがわれた。非行少年は,被害を受けたことによって,被害感が加害性に転化し,非行性を高めていることが推測された。ただし,現時点ではデータ数が少なく,まだ対象にも偏りがあるので,普遍的な傾向を示すまでの確定的な実証には至っていない。次年度に向けてさらにデータ収集を進め,より信頼性の高い分析をする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り昨年度(平成22年度)は非行少年調査(第1次)を実施し,今年度(平成23年度)は一般青年調査(第1次)に着手することができた。おおむね計画通りの行程で研究が順調に進展していると評価できる。ただし,一般青年調査においては今年度,関東を含めた東日本方面から開始する予定であったが,震災の影響によって東日本の調査の実施は今年度見送っており,データ収集の対象が狭められているが,それに代わって高校・大学等での学校関係の協力が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は第2次調査を予定している。今後は,幅広く一般青年の調査対象を広げたいと思っているものの,自治体等の協力を得る手続きが複雑で相当な時間を要するため,調査対象地域をある程度絞って対応可能な地域に協力を求める必要がある。また,非行少年調査については,研究協力者の法務省職員.(心理専門職)の異動に伴う職場の転勤があり,転勤先の勤務地での協力が所属長から得られるかどうかは,今後の調整にかかっている。さらに,データ分析については,これまで数量的な分析を中心に進めてきたが,質的な分析が可能かどうか,今後,分析方法についても研究協力者らと検討を重ねていく予定である。
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