研究概要 |
本研究は,覚せい剤事犯受刑者の薬物再使用のリスク要因である薬物渇望に焦点を当て,それを統制するためのコーピングスキル訓練を開発し,その効果をランダム化比較(RCT)によって検証することを目的としている。 前年度において,薬物渇望やコーピングスキルを測定する尺度を選定・開発したが,これを刑事施設の受刑者200名,自助グループのメンバー180名に送付し,質問紙調査を実施した。刑事施設については,男女2施設を選定し,女子施設からは既にデータを回収し,データ処理を完了した。男子施設については,先方施設の都合により,まだデータ回収には至っていない。自助グループについては,すべてデータを回収しデータ処理を完了した。この調査は,断薬失敗者と長期断薬成功者の薬物コーピングの差を見極めるための重要な調査であり,今後開発するプログラムにおける中心的な治療要素を同定する基礎となるものである。 また,本年度において,治療プログラムの骨格を完成することができた。覚せい剤依存症に対する認知行動療法プログラムとして米国で開発された「マトリックス・プログラム」を参考にして,「日本版マトリックス・プログラム短縮版」(J-MAT12)を開発した。これは,薬物依存症治療に特化した「リラプスプリベンション・モデル」に立脚したものである。 さらに,Marlatt & Donovanによる「リラプス・プリベンション:依存症の新しい治療」を翻訳し,出版した。本書の出版は,薬物依存症を始めとするアディクション治療に対する欧米での研究・実践の成果を広く我が国にも紹介するという大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの収集は一部回収できていないが,おおむね計画通りに進んでいる。プログラム開発は,当初の計画以上に進展しているが,マインドフルネス・コーピングを開発するための研究が実施できていない。上記を総合すると,おおむね計画どおりの進展である。
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今後の研究の推進方策 |
今後,刑事施設と連絡を密にし,円滑に残りのデータが収集できるように連携を図ることとする。プログラムの実施については,刑事施設内で行うことが困難である場合は,病院や自助グループでの実施を念頭において,計画を進めることとする。その場合,遅滞なく実施できるように本年度のうちに実施計画をあらかじめ策定しておく。
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