研究概要 |
目的 平成22年度は,自己への思いやり尺度を作成し,その信頼性と妥当性に関する調査を2回行った。調査1は,自己への思いやり尺度(self-compassion scale ; Neff, 2003)を邦訳し,日本語版自己への思いやり尺度を作成し,自動思考と抑うつ,不安との関連を検討した。調査2では,日本語版自己への思いやり尺度と関連する概念である自尊心,自己愛,自己批判などの自己の指標との関連性を検討した。 調査1の方法および結果 自己への思いやり尺度(26項目,5件法;Neff, 2003),ベック抑うつ尺度(21項目,4件法;Beck et al., 2003),特性不安尺度(20項目,4件法;Spielberger, 2000),自己愛人格目録(30項目,5件法,3因子;小塩,1998),Rosenberg自尊心尺度(10項目,5件法;山本他,1982)を実施し,大学生272名から回答を得た。 自己への思いやり尺度の因子分析を行ったところ,「自己へのやさしさ」,「自己の判断」,「人間らしさ」,「孤独感」,「マイドフルネス」,「過剰同一化」というNeff(2003)と同様の結果が得られた。しかし,信頼性係数が低いものが散見された。また,自己への思いやりとは,自尊心,自己愛を統制しても否定的自動思考,抑うつ,不安が負の相関を示した。 調査2の方法および結果 自己への思いやり尺度,ベック抑うつ尺度,特性不安尺度,自己愛人格目録,Rosenberg自尊心尺度に加え,自己批判を測定できるDepressive Experience Questionnaire(Blatt, 1976)を実施し,大学生163名から回答を得た。自己への思いやりは,自尊心,自己愛,自己批判を統制しても,不安,抑うつと負の相関を示した。このことから,自己への思いやりは,他の構成概念では測定できない要素を持っていることが我が国でも明らかになった。
|