研究概要 |
「MOA(Mutuality of Autonomy Scale)日本語版ガイドライン」の作成 Urist(1977)は,対象関係の発達水準を評価する尺度として,7段階からなるMOA尺度(Mutuality of Autonomy Scale)を考案した。この尺度はその後臨床的に用いられてきたが,Holady & Sparks(2001)は,MOA尺度について,対象関係論に基づく各水準の解説や定義の難しさ,評価の信頼性の低さなどを指摘し,対象関係論に精通していないテスターにも評定可能となるよう「改訂ガイドライン」を作成した。しかし,MOA尺度を日本に導入し,日本人被検者を対象として用いるためには,いくつかの問題点が残されている。そこで,Holady & Sparks(2001)の「改訂ガイドライン」に基づき,「MOA日本語版ガイドライン」の作成に着手した。「MOA日本語版ガイドライン」は以下のステップで作成した。(1)Urist(1977),Kelly(1999),Holady & Sparks(2001), Coates & Tuber(1988)などに基づき,できるだけ平易な日本語となるよう各水準の記述を検討した。(2)予備的に作成したガイドラインを用いて,非患者成人群,統合失調症を中心とした臨床群,気分障害群のロールシャッハ反応の評定を行い,ガイドラインの不明確な点と評定困難な反応について検討・合議の上,ガイドラインを改訂した。(3)各水準における定義の解説に,Kelly(1999)が挙げている反応例を提示すると共に,各群の日本人被検者のロールシャッハ反応を反応例として加えた。以上の手続きで,Holadyら(2001)と同様,対象関係論に精通していないテスターでも評定できるような「MOA日本語版ガイドライン」を作成した。作成した「MOA日本語版ガイドライン」は,今後,非患者成人群,統合失調症を中心とした臨床群,気分障害群の間で,対象関係の発達水準の比較や各群の特徴の把握や個々の被検者のロールシャッハ・テストによる臨床解釈に役立つものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人間表象反応の基礎データを作成するにあたって,現在取り組んでいるMOAが最も優れた対人関係発達評価尺度であると考えられた。そこで,「MOA日本語版ガイドライン」の完成を最優先し,それを用いた基準データの作成や統合失調症群や気分障害群の対象関係発達評価を行うことに意義があると考えられる。その研究は,まだ途中であるが,順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
作成した「MOA日本語版ガイドライン」に関して,評定の信頼性(評定者の一致度)を確認した上で,(1)非患者成人群を対象として,MOAの日本人被検者による基準データを作成する,(2)非患者成人群,統合失調症群,気分障害群の3群間で対象関係の発達水準を比較し、統合失調症群や気分障害群の対象関係の発達水準の特徴把握等の研究を開始する。最終的に,他の尺度や指標を加えて人間表象反応の基礎データを作成する。
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