研究概要 |
本研究の目的は,ロールシャッハ・テストの解釈の妥当性を高める方策として,データベースを用いた解釈支援システムを構築することである。すなわち,膨大な情報を利用して,いま目の前にあるロールシャッハ・プロトコルの客観的な位置づけを把握することにより,解釈の妥当性を高めようとする試みである。膨大なデータから引き出される情報は,解釈のための客観的かつ明確な根拠となる。この最終目的に到達するために,平成23年度は,(1)登録データの補充,(2)言語・画像検索システムの充実化,の2点を中心に作業をすすめた。 まず,(1)データの補充を行なった。データ収集にあたっては,性別・年齢・教育歴などの要因に偏りのないよう,各地区の協力者に要請し,バランスよく行った。一方,(2)言語・画像検索システムに関しては,研究分担者らの努力により,ほぼ完成に近づいたとみなすことができる。 上記のデータベースを活用し,平成23年度は具体的に以下の研究を行なった。すなわち,(a)ロールシャッハ・テストの人間運動反応に現れた反応内容の特徴を改めて整理・分析し,各精神障害群の反応のあり方から,その反応内容の臨床的意味について検討したこと,(b)動物運動反応と無生物運動反応について,各精神障害群に現れた反応内容の特徴から,その解釈仮説を再検討したこと,さらに(c)データベースの中から,同一被検者に対してロールシャッハ・テストとTAT(主題統覚検査)の両方が実施された2事例を抽出し,その徹底的な分析と解釈を通して,この2つの投映法心理検査の共通性,独自性について検討を行なったこと,の3点である。これらは,いずれもロールシャッハ・テストの解釈の妥当性を高めるのに役立つ研究と思われる。なお,(a)と(c)の2点に関しては,現在,学会誌等に投稿し,審査を受けている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースへの登録を許可されたケースは現在600を超えている。反応語,反応領域,そしてスコアのすべてを網羅したロールシャッハ・テスト記録のデータベースとして,この600という数は世界に誇れるものと思われる。また,言語・画像検索システムに関しても,研究分担者・協力者の尽力により,ほぼ完成に近づいた。ただし,論文の公刊等,研究成果の公開が十分とはいえなかったため,上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,言語・画像検索だけではなく,スコア情報に基づいた検索システムを確立する予定である。これについては,膨大なデータをもとにそれぞれのスコアの分布を調べ,T得点のような標準得点に換算することを計画している。また,「M:ΣC」のように比率が問題となる場合は,当該プロトコルと近似する結果を与えたデータを膨大なデータベースの中から検索し,そのようなプロトコルの出現率を検討する予定である。こういった計画を実施するのは,それによって分析対象となるロールシャッハ・プロトコルの相対的位置づけが可能となるからである。なお,この計画は,システム・エンジニア等の専門家の協力を得て,進める予定である。
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