我々の日常生活は、記憶されている複数の運動系列から、状況に即したものを選択し、適切なタイミングとパラメータで実行することにより成り立っている。課題研究の目的は、運動系列の記憶・再生と視覚的手がかりの関係を調べることである。 初年度は、運動系列記憶の基本単位の形成に対する視覚的手がかりの影響について、連続ボタン押し課題を用いて調べ、原学習の際に提示した視覚情報に基づいてボタン押し順序がグルーピングされて記憶され、学習後の実行時にはそのグルーピングに基づくタイミングが現れることが分かった。 次年度には、ボタン押し順序の記憶と再生のタイミングの関係について調べるために、両手間転移を調べる実験を行った。その結果、ボタン押し順序は両手間転移するが、タイミングの両手間転移は非対称であり、右手を用いて学習した後、左手で実行する場合には、そのタイミングや滑らかさが低下することが示唆された。一方、左手を用いて学習した後、右手で実行する場合には学習時のタイミング通りに滑らかに実行できる。このような非対称性が見られる理由は、右手が両半球からタイミングを引き出すことができるためであることが示唆された。 以上のように、視覚的手がかりが運動系列の記憶のグルーピングを左右し、再生のタイミングに影響していることがわかった。最終年度に当たる本年度は、まとめとして、このグループがどのように引き出されて、運動系列全体が正しく実行されるかを調べた。その結果、運動系列の選択的想起には、視覚的手がかりの他に、前のグループの再生が手がかりとなるチャンク間連合の手がかりと、現在、運動のどの段階にあるかが手がかりとなる、再生ステップの手がかりが用いられることが示唆された。
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