研究概要 |
近年、動物やヒトの乳幼児を対象とした数識別能力の検討が数多く行われ、動物や乳児においても、数表象システムnumber representation systemが備わっているとする議論が支持されている.数表象システムが可能とする数的処理の特性として,1)知覚的要因(大きさや時間等)の効果を受けない、2)提示フォーマット(同時/逐次)や感覚モダリティに依存しない、3)識別精度がウェーバーの法則に従う、といった点が主張されている,しかし、先行研究における行動データには、1)対象物の数が一貫していない、2)研究によって測定精度が異なる、3)練習効果が考慮されていない等、実験手続き上の問題点が指摘され、数表象システムの系統発生的連続性を証明する充分な検討がなされていない.本研究では、事象の"数"を抽出する過程の前段階に、入力時の提示フォーマットに依存する処理過程が存在することを検討し、数表象過程の精緻化を試みる.本年度は、以下の3つの実験研究を行った.研究1では、同時・逐次の両提示フォーマットにおける知覚的連続量の効果を検討した.さらに、同時提示フォーマットについて5歳児を対象とした実験を行い、発達的過程を検証した.研究2では、研究1で示された効果が、練習に応じてどのように変化するのかを検討し、同時/逐次フォーマットにおける数の識別では,異なる学習過程が関与する可能性を示唆した.また、一方のフォーマットでの練習効果は、他方での課題成績に転移しないことを示し、提示フォーマットごとに固有の処理過程が介在する可能性を示唆した.研究3では、熟達被験者を対象として、数表象過程における提示フォーマット固有システムの存在を検証した.同時、逐次フォーマットの両条件で、離散量の識別精度に系統的な差が示され,フォーマットごとに固有のシステムが介在する可能性が示唆された.
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