研究概要 |
近年、動物やヒトの乳幼児を対象とした数識別能力の検討が数多く行われ、動物や乳児においても、数表象システムnumber representation systemが備わっているとする議論が支持されている.数表象システムが可能とする数的処理の特性として,1)知覚的要因(大きさや時間等)の効果を受けない、2)提示フォーマット(同時/逐次)や感覚モダリティに依存しない、3)識別精度がウェーバーの法則に従う、といった点が主張されている.しかし、先行研究における行動データには、1)対象物の数が一貫していない、2)研究によって測定精度が異なる、3)練習効果が考慮されていない等、実験手続き上の問題点が指摘され、数表象システムの系統発生的連続性を証明する充分な検討がなされていない.本年度は、事象の"数"を抽出する過程の前段階に、入力時の感覚モダリティに依存する処理過程が存在するか否かを検討し、数表象過程の精緻化を試みた.研究4では,視覚刺激、聴覚刺激と触覚刺激を用いて,逐次提示刺激の離散量識別における感覚モダリティの効果を検討した.研究1では聴覚刺激、触覚刺激を用いて数識別課題を行った.識別精度について,モダリティ内,モダリティ間の3条件で差異が示されなかったことから,感覚モダリティに依存しない離散量表象過程の存在が示唆された.ただし,触覚刺激数が,聴覚刺激数に比較して過小評価される傾向が示されたことから,感覚モダリティは,アイテム数の識別の処理過程の何らかの段階に影響を及ぼすことが示唆された.研究2では、視覚刺激、聴覚刺激を用いて、一方の刺激での数識別の練習効果が他方の識別成績に転移するか否かを検討した.結果から、相互に転移の生じていないことが示唆された.また、視覚刺激、聴覚刺激の練習前、練習後の成績を比較した結果、聴覚刺激の成績が顕著に高いことが示された.
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