研究概要 |
これまでの音韻的作動記憶に関する研究の多くは,音韻情報の保持がどのようにして言語の音韻システムによって実現されているのか,そしてその音韻情報がどのような場面で利用されるのかという問題の解決に終始していた。実際には,言語の音韻的側面は,それが意味と結びついてはじめて機能する。本研究では,音韻情報の保持を支える意味記憶と超分節的特徴であるプロソディの貢献について検討する。具体的には,「意味情報が単語のアクセントパターンの保持を容易にする」,一方,「記銘単語のアクセントパターンが標準的なものから逸脱すると,意味情報の利用可能性が低下する」と考え,このような相互作用が音韻系列保持の成績に影響を与えると仮定している。この仮説を検証するため,本年度は,単語に付随するアクセント情報が,当該の単語本来のアクセントで提示される場合と,本来のものとは不一致である場合に,音素系列の再生成績がどのような影響を受けるのかを検討し,アクセント情報と意味情報の相互作用現象を確立することを目的とした。具体的には,心象性と出現頻度を直交操作できる日本語3モーラ名詞を記銘材料として,1リスト5単語の直後系列再生の実験を報告した。その結果,呈示アクセントがその単語本来のものである場合に,そうでない不一致の場合よりも再生成績がよいというアクセント一致効果が,心象性が低い単語において強力に現れることが示された。心象性は単語の意味情報の豊かさを示す1つの指標であり,この結果は,直後系列再生におけるアクセントの効果が意味情報の影響を大きく受けていることを示唆している。これらの成果は,国際会議,国際講演会等での議論を経て,学術論文の原稿としてまとめられた。
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