人間による顔知覚のしくみを解明するため、顔錯視と知覚学習の両方の観点から実験研究を行なった。まず、錯視研究の方法を顔知覚に応用した実験研究を複数行った。研究1では私たちが新たに発見した顔の錯視である「頭の大きさ錯視(Head Size Illusion)」(顔の下半分(目から下)が肥っている場合、顔の上半分(目から上)も大きく見える錯視)について測定実験を昨年度に引き続き継続し、その結果をヨーロッパ視知覚学会大会にて発表した。なお、この「頭の大きさ錯視」は2012年の日本基礎心理学会主催第4回錯視コンテストで入賞した。 研究2では化粧によって顔が変化して見える現象を錯視研究の手法を用いて測定した。その結果、アイラインまたはマスカラの使用により目の大きさは(長さ次元で)5~6%過大視されることが判明した。さらに、アイラインとマスカラの両方を併用する場合は、マスカラの効果が強いためアイラインの錯視効果が失われることが見出された。また、眉の傾きを変えると知覚される目の傾きも同方向に変化すること、眉と目の間隔が小さいほうが目が大きく見えることなど、眉が目の知覚に及ぼす錯視効果も見出された。 さらに研究3では知覚学習の観点から、部分的に隠された顔に対する単純接触効果が知覚的にアモーダル補完された全体顔に般化することを実証した。部分的に隠された無意味図形の場合は単純接触効果が知覚的にアモーダル補完された全体図形に般化しないので、無意味刺激と顔のような有意味刺激では単純接触効果の生起機序が異なることが示唆された。
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