研究概要 |
前年度に実施した軽度断眠(就床時刻を遅延して床上時間を短縮)による睡眠制限実験で得られたデータを生理・心理・行動の3点から分析を行い,ホメオスタシス調節の関与による睡眠改善の可能性を示唆する成績を得て,日本生理心理学会,日本心理学会,日本睡眠学会等にて公表した。 1.ホメオスタシス調節の生理的指標として有力視されている脳波δ帯域パワ(最大エントロピー法による周波数分析で得られた1~4Kz帯域のパワ積分値)を分析した結果,同パワは軽度断眠を負荷すると睡眠経過の最初の2時間に顕著に増加した後に時間経過とともに指数関数的に減弱する時間変動を示し,その変動は軽度断眠の負荷の大きさに比例してより鮮明となった。これは軽度断眠により増大した睡眠欲求を深い眠りによって短時間で取り戻すホメオスタシス調節の現れと理解され,不眠症の睡眠制限療法に生理的根拠を提供するものと考えられる。 2.軽度断眠による睡眠改善の心理的現れをOSA睡眠調査票により調べた結果,睡眠維持(因子H)と入眠(因子V)は軽度断眠が1時間から2時間へと進むに従って改善した。しかし,眠気(因子1),熟眠感(因子IV)および気がかり(因子III)は軽度断眠が1時間から2時間に延長すると悪化した。心理的改善が睡眠維持と入眠改善にとどまったことについてはさらに検討を要する。 3.行動面はアクチグラフデータの分析の結果,日中の仮眠の減少およびサーカディアン周期の約24時間への収敷(自己相関分析)を認め,睡眠覚醒リズムに一定の改善が現れた。 転出による研究機関の変更に伴い,当初の研究目的と計画を継続し展開するに足る実験環境の整備を進め,パイロット実験を重ねた。その結果,新研究機関において終夜睡眠ポリグラフを安定して継続できることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
軽度断眠(床上時間の短縮)による睡眠制限は睡眠改善のホメオスタシス調整を発現させるのに有効な方法であることが判明したが,他方で軽度断眠の緩和(回復)過程においてホメオスタシス効果がどの程度維持されるのかが臨床的には重要な問題となる。そこで,軽度断眠負荷の緩和(回復)過程に至る手続きを導入した基礎的な実験を行い,これまでの成果にさらに新たな知見を蓄積し,不眠症改善の睡眠制限療法の生理心理学的な意味づけを明確なものにする。
|