研究課題/領域番号 |
22530796
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
廣重 佳治 福山市立大学, 教育学部, 教授 (80140416)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 睡眠制限 / ホメオスタシス調整 / サーカディアンリズム / 睡眠ポリグラフ / 睡眠脳波 / デルタ帯域パワ / アクチグラフ / 自己相関分析 |
研究概要 |
睡眠制限による睡眠改善効果には生理学的なホメオスタシス調節の関与が推定されている。本研究は軽度断眠を負荷した睡眠制限下でのホメオスタシス調節の脳波学的検証および心理学的影響の解明を目的とした。実験参加者8名は本研究の目的・方法・個人情報保護等について書面で同意した。睡眠ポリグラフの順応記録後,軽度断眠を累積的に負荷する漸進的睡眠制限の手続きを開始した。参加者は7日間の基準夜,就床時刻を1日20~30分ずつ連続7日間後退させる遅延夜(最大2時間の睡眠短縮),就床時刻を1日20~30分ずつ連続7日間前進させる回復夜の3条件の順に,自宅6夜と実験室1夜の睡眠をとった。実験室睡眠は電気的遮蔽・防音暗室内にて標準的睡眠ポリグラフにより観測した。参加者は実験期間中の起床就床時刻,主観的睡眠時間,睡眠感,眠気などの心理変数を睡眠日誌に記録した。睡眠覚醒リズムの行動的計測にアクチグラフを用いた。 睡眠脳波(C3導出,基準電極法)の周波数分析(最大エントロピー法)により求めたデルタ帯域(1-3Hz)パワは,基準夜および回復夜と比較して,遅延夜(睡眠制限)において時間経過に伴う単調減少が顕著に生起し,就眠後5時間の総パワ量が有意に多く,特に就眠後1時間で増加が顕著であた。この結果は前報とほぼ一致し,ホメオスタシス調節の睡眠制限下での増強を示している。さらに,ホメオスタシス調節を鋭敏に反映する周波数成分はデルタ帯域のなかで最も遅い1Hzであるという新しい結果を得た。デルタ帯域パワの時間変動は単調減少傾向のほかに,パワの一時的回復や非減少という事例が少なくなく,その多様性の検討が課題として残されている。 睡眠覚醒リズムの行動的計測にアクチグラフが有効であるが,その自己相関分析により睡眠制限下で生起するサーカディアンリズムの修正を計量的かつ視覚的に把握することが可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漸進的睡眠制限の実験計画に従って一次資料(睡眠ポリグラフ,アクチグラフ,睡眠日誌)の収集をほぼ予定通り行うことができた。軽度断眠下でのホメオスタシス調節の関与を検討するため必要となる睡眠脳波の周波数分析を一通り終えることができた。その成果の一部は学会誌に投稿掲載され,さらに新年度の学会にて発表の予定である。 睡眠制限による睡眠改善は入眠促進と睡眠維持にとどまらず,睡眠覚醒のサーカディアンリズムの修正にまで及ぶ可能性を示唆するという本研究の成果は,アクチグラフの時系列解析によってはじめて可能となった。なお,睡眠制限によってもたらされた改善効果の保持(回復や)の分析は新年度の検討事項として残されている。 本研究を進める過程で大坂人間科学大学心理学研究室より共同研究(看護師の交代勤務への適応とサーカディアンリズムをテーマ)という新しい展開があった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究テーマの最終年度に当たることから,資料の集中的整理と成果公表に精力的に取り組む。過去3年間の実験研究によって収集した睡眠ポリグラフ(主に脳波)の時系列解析,アクチグラフ記録したサーカディアンリズムの時系列解析および心裡変数の統計分析などを引き続き行い,これまでの中間発表を含め,次の3点に力点を置きつつ総合的な整理を行う。 1.睡眠制限がもたらす心理的睡眠感の改善効果,2.睡眠ホメオスタシス調節を鋭敏に反映する脳波成分および多様性に関する脳波学的検討,3.睡眠制限下での睡眠覚醒リズム修正の自己相関分析による評価 本研究の学術的位置と意義を考察するための睡眠制限に関する文献研究を行う。成果公表は,学会等での発表,論文執筆,報告書作成とする。
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