耳撃証言の正確さを規定する要因としての、耳撃時における情動の影響を実験的に検討した。実験は1要因2水準の被験者間の実験計画であった。実験参加者は映像評価の目的と称しての実験に参加する。ビデオを暗室で見ているのであるが、この見るビデオに2種類が用意され、一つはトトロで暖かな印象を与え、もう一方は教室の「呪いのビデオ」という、恐怖の印象を与えるビデオの一部を見せた。実験では、それらのビデオを見始めてから一定時間経過後(映像提示開始から50秒後)、携帯電話のベルが鳴り、その電話に出て応対するように求められた。相手からは「もしもし、日本大学文理学部心理学科の鈴木伸吾と申します。工藤純一郎さんのお電話でしょうか?すみません。間違えました」との内容が話された。この声に関しては、実際に実験補助者によって、話者に連絡して、実際に携帯電話をかけてもらって提示した。この声の提示後一週間経過して、声の識別テストを行った。識別テストでは、ターゲットの人物を含め、6人の声をあらかじめ録音したものを使用した。ターゲットの声(実際の話者の声)はラインナップの5番目に提示するようにした。結果はトトロ条件に対して、恐怖喚起の条件で約半分のヒット率であった。この結果は、耳撃においても目撃者における識別や記憶遂行と同様に、ネガティブな情動喚起によって、成績の低下がもたらされたことを示している。今回の検討は一週間後での識別テストであり、さらに声の情報が比較的少ない条件の下での検討であったが、今後他の要因を含めた検討が必要とされよう。最初の実験結果としては評価できるものと思われる。
|